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名古屋地方裁判所 昭和40年(ヨ)525号 判決 1965年10月18日

申請人 伊藤文昭

被申請人 社団法人全日本検数協会

主文

被申請人が申請人に対し昭和四〇年四月二四日為した解雇の効力を、申請人が提起する本案の判決確定に至るまで停止する。

被申請人は申請人に対し金六、六〇〇円、及び昭和四〇年四月一日以降本案判決確定に至るまでの間毎月二五日限り金一一、〇〇〇円を仮に支払え。

申請人のその余の申請を却下する。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

(申立)

一、申請人

主文第一、二、四項同旨並びに被申請人が申請人に対し昭和四〇年二月二五日なした就業禁止命令の効力を、申請人が提起する本案の判決確定に至るまで停止する。

申請人が被申請人に対し、被申請人の管理する名古屋市港区千鳥町三丁目四番地所在千鳥寮の寮生たる地位を有することを仮に定める。

被申請人は申請人に対し、食事の差止その他申請人が千鳥寮寮生として寮内に居住生活し寮の諸施設を利用することを妨害してはならない。

二、被申請人

本件申請を却下する

訴訟費用は申請人の負担とする。

(申請の理由)

一、申請人は被申請人協会名古屋支部の従業員で店童(給仕)としての地位にあり、全日本港湾労働組合東海地方名古屋支部全検分会に所属する労働組合員である。

二  (一) 被申請人協会は申請人に対し、昭和四〇年二月二五日申請人の就業を禁止し、作業場からの退場を命じた(以下本件就業禁止命令という)。そして翌同月二六日以降本件解雇のなされた同年四月二四日までの間、申請人が作業場へ入場し、又就業することを拒否した。

(二) 本件就業禁止命令がなされた経過は次のとおりである。昭和四〇年二月二五日申請人が名古屋支部事務所内で書類を運搬中、その書類の端が名古屋支部海上作業第一課長宮下亘の机附近の灰皿にふれ音を立てたところ、これを聞きとがめた宮下亘は、申請人を叱責すると共に申請人に対し謝罪することを求めた。これに対し申請人が謝罪の理由がないとして拒否したところ、宮下亘は口頭で即座に申請人に対し本件就業禁止命令をなした。

(三) 本件就業禁止命令は次の理由により無効である。

(1)  就業規則には、次の如き規定がある。

第二四条 次の各号の一に該当するものは入場を拒み就業を禁止し退場を命ずることがある。

1 酒気を帯びて他人に迷惑を及ぼす虞のあるもの

2 兇器、危険物品、その他作業に必要のないものを携帯するもの

3 作業に不適当な服装をしているもの

4 作業を妨害し若しくは職場の風紀秩序を乱す虞のあるもの

5 その他前各号に準ずるもの

しかし申請人は右各号に該当する行為を行つていない。

(2)  申請人は、店童(給仕)として名古屋支部総務課に所属するものであるが、海上作業第一課長たる宮下亘は申請人に対し就業禁止を命ずる権限を有しない。

(3)  就業規則は第九章に懲戒に関する規定を有しているが、前記第二四条の規定の内容及びそれと右懲戒に関する規定とを対比すれば前記第二四条の規定は職場の風紀秩序を維持するための一時的処分をなしうることを定めたものであることは明らかである。本件の如き約二ケ月間にも及ぶ長期の就業禁止は実質的には懲戒処分であり、懲戒に関する規定により定められた手続を潜脱するものであり違法である。

三、被申請人協会は昭和四〇年四月二四日申請人に対し解雇の意思表示をなした。

申請人には、解雇されるような事由は存在せず、又本件解雇は前記就業禁止命令に対し申請人がとつた態度を理由とするものであり、従つて本件解雇の意思表示は無効である。

四  (一) 申請人は、被申請人協会から毎月二五日に月額金一一、〇〇〇円の賃金の支払を受けていた。被申請人協会は、昭和四〇年二月二五日以降申請人の労務の提供を受領することを拒み、同年三月二五日の賃金支払日に申請人に対し金六、六〇〇円の減給をなし、その支払いをなさず、同年四月一日以降の賃金を支払わない。

(二) 本件就業禁止命令、及び解雇の意思表示が無効であるから、申請人は被申請人協会に対し金六、六〇〇円及び昭和四〇年四月一日以降毎月二五日限り月額金一一、〇〇〇円の賃金の支払を求める権利を有する。

(三) 仮に就業禁止命令が有効であるとしても、

(1)  就業規則によれば就業禁止は懲戒処分には含まれていない。従つて就業禁止に基づき賃金の支払をしないことは、就業規則に定める制裁の種類及び程度によらずして労働者に制裁を課するものであり労働基準法第八九条一項八号に違反し、

(2)  前記減給は、申請人の受ける一賃金支払期における賃金総額金一一、〇〇〇円の一〇分の一を超えるものであり、就業規則第五八条第二号、労働基準法第九一条に違反し、

それぞれ違法である。

五  (一) 申請人は被申請人協会の管理する名古屋市港区千鳥町三丁目四番地所在の千鳥寮に寮生として居住するものであるが、昭和四〇年四月三〇日被申請人協会は、申請人が被申請人協会の従業員たる地位を失つたことを理由に、申請人に対し千鳥寮から退寮するよう命じ、同日以降申請人に対する給食を停止した。

(二) 前記の如く本件解雇は無効であり、千鳥寮を退寮すべき義務はなく右寮に居住する地位を有している。

六、申請人は賃金のみにより生活を維持している労働者であり、且又、寮の利用を拒否されることは苦痛であり、申請人が被申請人協会を被告として提起する各訴の本案判決の確定をまつては回復し難い損害を蒙る。

(被申請人の答弁)

一、申請の理由第一項の事実は認める。

二、申請の理由第二項について、

(一)の事実は認める。

(二)の事実は争う。

(三)の内就業規則に申請人主張の如き規定があることは認めるが、その他の主張は争う。

三、申請の理由第三項の内解雇の意思表示をなした事実は認めるが、その他の事実は否認する。

四、申請の理由第四項の内(一)の事実は認めるが、その他の主張は争う。

五、申請の理由第五項の内(一)の事実は認めるが、その他の主張は争う。

六、申請の理由第六項の事実は否認する。

(被申請人の主張)

一、申請人は店童(給仕)として名古屋支部業務部配置調整課に属し、業務上は業務部所属の各作業課長の指揮監督を受け各作業課の業務を行つている。

店童は、中学校卒業者に対して定時制高校進学を条件として採用され、就学の費用(授業料、通学費、教科書代金等)は被申請人協会が負担し、又勤続満三ケ年経過後は詮衡の上見習職員に採用され、定時制高校卒業後は正職員に採用されるという地位であり、被申請人協会の正規の従業員ではないが就業規則の適用は受けることとなつている。そして被申請人協会と得意先との間の書類の運搬及び現場作業員に対する昼食弁当の配達を主たる業務としている。申請人は、大同工業高等学校定時制に通学しており、就学の費用は被申請人協会が負担している。そして被申請人協会は、申請人の就学を考慮して、勤務時間については、通常午前八時から午後五時までのところ申請人に対して午前八時から午後四時までと軽減し、業務についても昭和三九年一二月九日からは弁当配達の業務をはぶき、書類の運搬のみに限つている。

二  (一) 本件就業禁止命令をなすに至つた事由は次のとおりである。昭和四〇年二月二五日午後一時三〇分ころ、申請人は、名古屋支部海上作業第一課の指示により名港海運株式会社から報告書その他の書類を受取り帰社し、同課の机の上に書類を置いたが、申請人の書類の取扱いが乱暴であつたため、大きな音を立て、灰皿がひつくりかえり、吸殻が散乱した。そこで海上作業第一課長宮下亘が申請人に対しなぜそのような置き方をするのかと申向けて注意を与えたところ、申請人は、「俺は静かに置いたよ」と答えて反抗的態度を示した。宮下課長は「それが静かに置いたとはいえない。君は書類のランナーとして書類を大切に取扱うのが任務であるのにその態度は何事か。今書類の置き方を実演するから見ていなさい」と言つて自ら書類の置き方を示し申請人にその旨行うよう申し向けたが、申請人は「やる必要はない俺は書類を置いただけだ。そこに灰皿があつたから飛んだんだ」と答えてこれを拒否し、更に宮下課長につめより、反抗的態度を示し、宮下課長がその態度を改めるよう注意したのに対してもそれを拒否した。申請人の右行動は就業規則第二四条第四号及び第五号に該当する。

(二) 就業禁止命令を行つた手続は次のとおりである。

宮下課長及び業務部次長小島由春両名が申請人の右行動につき協議し、支部長付部長赤木勇に報告し就業規則第二四条第四号及び第五号を適用して申請人を就業禁止とすることを決定し、宮下課長を通じて申請人に通告した。そして業務部部長、及び当日休務であつた申請人の直接上司たる配置調整課長小林芳治の両名は事後承認をした。

(三) 就業禁止が長期間になつたのは次の理由による。

被申請人協会は申請人に就業禁止を通告した際、従前の勤務態度を改めることを確約して就労の申出をなした場合は即時就労させる旨告げた。しかし申請人は勤務態度を改めず、被申請人協会が一方的になした就業の禁止には絶対従えないとの態度をとり、被申請人協会職制の連日にわたる説得にもかかわらずその態度を改めようとしなかつた。従つて被申請人協会としては申請人を就労させることができなかつたのである。

(四) 就業禁止中の賃金については被申請人協会は就業規則その他において何らの定めもしていないが、従来から慣行として賃金を支給していない。本件において被申請人協会が申請人に就業を禁止したのは申請人の責に帰すべき事由によるものであるから、申請人は就業禁止中の賃金を請求する権利を有しない。

三、本件解雇の理由は次のとおりである。

(一)  申請人は勤務態度が悪く、度々の注意にかかわらず態度を改めない。

(1) 申請人は、作業閑散時には待機室にて待機していることとなつているにもかかわらず、待機室にいないことが度々あり、又勤務時間中に申請人の居住する千鳥寮へ帰り寝転がつていることがあつた。昭和三九年一二月二三日小林芳治課長が申請人に注意を与えたが改めなかつた。

(2) 申請人の勤務は午後四時までとなつているが、退社するときは上司に挨拶して帰るよう指示されているにもかかわらず申請人は行わない。

(3) 申請人は平素、名古屋支部業務部事務所内を歩くとき、課長席をにらみつけ、薄笑いをうかべ、肩をいからせて濶歩するという態度であり、右態度につき宮下亘課長は申請人に対し昭和四〇年一月中旬、同年二月初旬、同月中旬にそれぞれ注意を与えたが、申請人は改めなかつた。

(4) 申請人の勤務態度につき被申請人協会の得意先から苦情が申しこまれていた。

(二)  前記の如く昭和四〇年二月二五日申請人は宮下亘課長の注意に対し、自分の非を改めようとせず、反抗的態度に出た。

(三)  申請人は同日以降も勤務態度を改めようとせず、反抗的態度に出た。

(1) 申請人は、同月二六日から同年三月四日までの間毎日名古屋支部業務部事務所へ出てきて、就業禁止のところへ赤札にしてかけてある申請人の名札を裏返して黒札にした。そしてその時の態度は課長席をにらみつけ、胸を張つて、これ見よがしの態度であつた。なお名札を赤札から黒札にすることは出勤を意味する。

(2) 同月五日から同月一四日までの間は名古屋支部事務所へは来なかつたが、同月一五日から同月二五日までの間は殆んど毎日名古屋支部事務所へ出て来て前同様の態度で名札を赤札から黒札にかえた。そしてその都度、小林芳治課長が申請人に対し就労するならば勤務態度を改め、上司の指示命令に従うよう申し向けたが、申請人は、何も悪いことはしていない。就業禁止は被申請人協会が一方的にしたことであり、上司の指示命令には絶対に従えない旨返答をくりかえしていた。その間申請人は、従前の勤務態度を改め、上司の職務上の指示に従うことを確約せず、又右確約の上就労する旨の申出もしなかつた。そして右期間申請人は時間外労働拒否の組合ビラを配布したり、資金カンパと称して団結栄養タマゴの販売をしたりしていた。

(3) 同月二三日名古屋支部総務部総務課において、小林芳治課長及び海田総務課長心得が申請人を説得したが、申請人は上司の指示命令に従うことは奴隷になることだ旨発言、説得に従わなかつた。

(4) 同月二六日以降、小林芳治課長が申請人が事務所へ来たときはその際に、来ないときは呼び寄せて、連日申請人に対し、(イ)二月二五日の件につき、宮下課長に陳謝すること、(ロ)被申請人協会の就業規則を遵守し、勤務中上司の指示命令に従うこと、(ハ)以上二点を書面により確認することを申し向け申請人を説得したが、申請人は自分は正しいから陳謝する必要はない、協会が一方的に作つた就業規則や上司の命令に従うことは奴隷になることだなど返答し説得に応じなかつた。そして同月二九日には業務連絡と称して被申請人協会の電話を使用し、同年四月二日には資金カンパと称して立入禁止となつている電話交換室へ団結タマゴ販売のため立入り、同月一四日には業務用自転車の通学用使用を強要するなどし、又就労のため出勤したといいながら草履ばきであつたり、申請人の態度は反抗的であり到底正常な勤務を期待しうるものではなかつた。

被申請人協会は、申請人のこれらの態度は就業規則第三九条第五、六、七号に該当するものとし、解雇予告手当金一二、三九〇円を申請人に現実の提供をなし、解雇の意思表示をなした。なお申請人の前記態度は就業規則第六四条第一〇号、第一四号にも該当する。

前記の如き店童の地位は、正規の職員に採用される以前の暫定的な地位であり、かつ勤務も正規の職員に比べ時間的、内容的にも軽く、勉学のための特別な便宜を与えられていることから考え、店童たる申請人と被申請人協会との雇用関係は正規の職員に比べて稀薄であり、従つて解雇理由も正規の職員に比べてより軽微な事由で足るものである。

以上の如く本件解雇は有効であり、従つて申請人は解雇以降の賃金請求権を有せず、又独身寮規程第一四条第一号により千鳥寮を退寮すべき義務を有している。

(被申請人の主張に対する申請人の答弁)

被申請人の主張は全て争う。

(証拠省略)

理由

一、申請人が被申請人協会名古屋支部の従業員で、店童(給仕)たる地位にあり、全日本港湾労働組合東海地方名古屋支部全検分会に所属する労働組合員であることは当事者間に争はない。そして成立に争のない乙第一号証、証人赤木勇の証言(二回)により真正に成立したものと認められる甲第二号証の二、証人小林芳治の証言、申請人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被申請人協会において、店童は中学校卒業者にして定時制高校進学を条件として採用され、就学の費用につき、授業料全額、教科書代金一、〇〇〇円を限度として実費をそれぞれ被申請人協会が負担し、又勤続満三ケ年経過後詮衡の上見習職員に登用され、定時制高校卒業後正職員に昇格するという地位であること、申請人は大同工業高等学校定時制へ通学し、申請人の授業料全額及び教科書代年額金一、〇〇〇円を被申請人協会が負担し、又申請人は通学のため被申請人協会の自転車を使用することを許されていたこと、申請人は従来名古屋支部総務課に所属していたが、昭和三九年一一月ないしは一二月ころから業務部配置調整課に所属するようになつたこと、申請人の業務は、従来は業務部各課の指示命令に従つて被申請人協会と得意先との書類の運搬及び現場作業員に対する弁当の配達であつたが、従来申請人の外に一名の店童がいたところ右店童が見習職員に登用されたため店童は申請人一名となり、そのため申請人の仕事量が多くなつたので業務部配置調整課へ変つたことを機に、昭和三九年一二月九日ころから書類の運搬のみを行うこととなつたことが認められ右認定に反する証人小林芳治の証言部分は前証拠によりたやすく措信できず他に右認定を覆すに足る証拠はない。

二  (一) 被申請人協会が昭和四〇年二月二五日申請人に対し本件就業禁止命令をなしたことは当事者間に争はない。

(二) 証人宮下亘の証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証、証人太田一男の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証、証人宮下亘の証言及び申請人本人尋問の結果を綜合すると、昭和四〇年二月二五日申請人は、海上作業第一課村林主任の指示により名港海運株式会社へ二〇冊の書類を受け取りに行つたところ、八冊しかなかつたためそれを受け取り同日午後一時過ぎころ同課へ帰り、村林主任に八冊しかなかつた旨申し向けながら同課の机の上に右書類を置いたこと、その際書類が机の上にあつた金属製灰皿にあたり、音をたて、灰皿がひつくりかえり、吸殻が散乱したこと、申請人は灰皿をととのえ吸殻などを仕末したが、宮下課長は灰皿の音をききつけ申請人に対し、何故そのような置き方をするのかと注意し、更に自ら書類の置き方を示し再度そのように行うよう申し向けたが申請人はその必要がない旨返答し拒否したことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。申請人の前記八冊の書類の置き方が乱暴であつたり、取扱いが悪かつたとの事実を認めるに足る証拠はなく、又申請人が故意に書類を灰皿にあてたとも認められない。以上認定の事実によれば宮下課長が書類の置き方を示してその旨行うよう命じたのに対しそれを拒否した申請人の行為は未だ就業規則第二四条(規定の存在は当事者間に争はない)第四号の作業を妨害し若しくは職場の風紀秩序を紊す虞がある行為、又は第五号のその他前各号に準ずるものに該当するものとは認められない。従つて前記申請人の行為を反抗的態度としてなした本件就業禁示命令は違法である。

(三) 本件就業禁止期間が昭和四〇年二月二五日から約二ケ月の長期にわたつたこと、その間同年三月二五日の給料支払日において被申請人協会が申請人に対し金六、六〇〇円の減給をなし、又それ以降賃金を支払つていないことは当事者間に争はない。成立に争のない乙第一号証によれば、就業規則第五八条以下に懲戒処分に関する規定を置き、懲戒処分は懲戒委員会の議を経て行うこと、懲戒処分の一つに出勤停止処分がありそれは七日以内としていることが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。右出勤停止に関する規定及び当事者間に争のない就業禁止に関する就業規則第二四条の規定を綜合すれば就業禁止は職場秩序維持のため一時的になされる処分と考えられる。従つて本件の就業禁止は就業規則の規定を潜脱した実質的な懲戒処分と認められ、この点において本件就業禁止は違法である。被申請人は本件就業禁止が長期にわたつたのは申請人が勤務態度を改めようとしなかつたためである旨主張するが右主張は前記判断をくつがえしうるものではない。

三  (一) 被申請人協会が申請人に対し、昭和四〇年四月二四日解雇の言渡しをなしたことは当事者間に争はない。

そして成立に争のない乙第一号証第七号証によれば右解雇は、就業規則第三九条第五号協会に対して非協力的な言動、画策をなし協会の業務の正常なる運営を妨げ又は妨げんとしたとき、第六号已むを得ない業務上の都合によるとき、第七号その他前各号の一に準ずる事由があるときに該当するとしてなされたこと、懲戒解雇又は諭旨退職の事由として就業規則第六四条第一〇号業務上の指示命令に不当に従わず、職場の秩序を紊し又は紊さんとしたもの、第一四号その他前各号に準ずるものと規定していることが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。

(二) (1) 証人小林芳治の証言及びそれにより真正に成立したものと認められる乙第九号証によれば申請人は仕事の閑散な時は作業室に待機していることとなつていたが、上司に断わりなく待機室から居なくなり仕事を命じ得なかつたことが三回ぐらいあり、その都度注意を与えられたことが認められ右認定に反する申請人本人尋問の結果はたやすく措信し得ず他に右認定を覆すに足る証拠はない。しかし右申請人の行為が何日ごろの行為か又何日から何日までの間に約三回あつたのかが明らかでないから、右程度の行為をもつてしては未だ解雇事由としての就業規則第三九条第五号、六号、七号、又は懲戒解雇事由としての就業規則第六四条第一〇号第一四号に該当するに至るものとは云えない。そして被申請人主張の如き、申請人が勤務時間中千鳥寮へ帰り寝ころがつていた事実を認めるに足る証拠はない。

(2) 被申請人は申請人が午後四時に退社する際には上司に挨拶して帰えるよう指示されているにもかかわらずそれを実行しなかつた旨主張する。しかし退社時に上司に挨拶することは一般社会における礼儀に関することであり業務に関することではない。従つてそれを指示命令することは業務上の指示命令とは認められず、元来使用者が従業員に指示命令し強制しうる事項ではない。従つて退社の挨拶をしないことは解雇の理由となる事項ではない。

(3) 証人宮下亘の証言及びそれにより真正に成立したものと認められる乙第八号証によれば申請人は名古屋支部事務所内を歩くときは胸をはり、事務所内を見回わし横柄な態度であり、又薄笑いをうかべるようなこともあり、申請人のこのような態度につき申請人の上司らは反抗的である旨感じていたことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。しかし申請人の右態度が、申請人が上司に反抗してとつているものと認めるに足る証拠はなく、申請人本人尋問の結果によれば申請人の右態度は申請人が歩く際のいわゆる癖であることが認められ、証人宮下亘の証言によれば申請人の右態度によつて被申請人協会の作業に影響することがないことが認められる。又申請人の右態度が職場内の秩序を紊すものであるとも認められない。従つて申請人の右態度が就業規則第三九条第五、六、七号又は第六四条第一〇号第一四号に該当するものとは認められない。

(4) 証人小林芳治の証言によれば、小林芳治が被申請人協会の得意先たる名港海運株式会社へ行つた際同人は同社の人から申請人の服装や態度につき注意されたこと、又他の得意先からも小林芳治が申請人につき何らかの苦情を聞いたことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。しかし右のような事由については初ず申請人に改めるよう注意するなどの方法をとるべきであり、右事由が存することをもつてただちに解雇理由としての就業規則第三九条第五、六、七号又は懲戒解雇理由としての就業規則第六四条第一〇号第一四号に該当するものとは認められない。

(5) 昭和四〇年二月二五日の申請人の行為は前記認定のとおりであり、右行為は前記就業規則の各規定に該当しない。

(6) 証人小林芳治の証言、及びそれにより真正に成立したものと認められる乙第九号証、申請人本人尋問の結果によると申請人は昭和四〇年二月二六日から同年三月二三日までの間、同月四日から同月一四日ころまでを除いて毎日出勤し申請人の名札を赤札から黒札に変えていたこと、その際の申請人の態度は課長席をにらみつけるような態度であつたこと、又小林芳治課長は申請人に対し再三、勤務態度を改め上司の指示命令に従うよう注意したが、申請人は何も悪いことはしていない、上司の命令には絶対従えない旨返答し、又協会が一方的に作つた就業規則や上司の命令に従うことは奴隷になることだ旨の発言をしたことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。又前記乙第九号証、証人佐門勲の証言により真正に成立したものと認められる乙第一一号証、証人小林芳治、同佐門勲の各証言及び申請人本人尋問の結果を綜合すると昭和四〇年三月二三日申請人を名古屋支部総務課へ呼び、海田浩明総務課長心得、小林芳治課長が申請人と面談し、申請人に対し同年二月二五日の如き態度を改め上司の指示命令に従うよう説得したが、申請人は正しいと思つているから改める必要はない、上司の指示命令に従うことは奴隷になることだなどと申し向けて反抗的態度を示したことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。そして前記乙第九号証、証人小林芳治の証言申請人本人尋問の結果によると、同月二四日以降申請人は毎朝配置調整課へ出頭することになり、連日小林芳治課長が申請人に対し同年二月二五日の件につき宮下課長に謝まること、絶対服従を誓うこと右二点を文章にすることを申し向けたが申請人は悪いことをしていないので宮下課長に謝まれない、絶対服従はできない旨返答しそれを拒否していたこと、申請人は資金カンパのため団結タマゴを販売していたこと、そして同年三月二〇日には名古屋支部待機室において、又同年四月二日には立入禁止となつている電話交換室内においてそれぞれ右団結タマゴを販売したこと、又同月一四日には通学のため被申請人協会の自転車の使用を強要したこと従来申請人は通学のため被申請人協会の自転車の使用を許されていたことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。以上認定の事実によれば申請人は反抗的な態度や発言をなし、通常の状態において考えるならば不穏当ともいうべき発言をなしたことが認められる。しかしそれらの態度、発言は被申請人協会の違法なる就労禁止中のものであり、又それを原因とするものと認められる。従つて申請人の前記態度、発言をもつて、前記就業規則の各規定に該当するものとして申請人を解雇することは不当と考えられる。又名古屋支部事務所内で団結タマゴを販売した行為については回数も二度とそれ程多くなくそれをもつては未だ前記就業規則の各規定に該当する程度の解雇理由とは認められず、又自転車の強要に関しても申請人には自転車の使用が許されていたことを考えれば右事実も又前記就業規則に該当する程の解雇理由とは認められない。

(三) 以上の如く被申請人の主張する各解雇の理由はいずれも理由がなく、又これらを全て綜合しても申請人を解雇することは不当というべきであり本件解雇は解雇の理由なくしてなされたもので無効である。被申請人は申請人が店童として特殊な地位にあり、又勤務も時間的、内容的にも軽い故申請人と被申請人間の雇用関係は稀薄であり従つて解雇理由も軽減される旨主張する。申請人が店童であり、店童の地位、店童としての申請人の勤務内容は第一項記載の如くであるが弁論の全趣旨によれば就業規則は何らの除外事項もなく店童に適用されることが認められ、又店童がいわゆる試用期間中の者、臨時に雇用された者とは認められず、従つて申請人が店童として前記の如き地位にあり、業務を行い前記乙第二号証の一により認められる被申請人協会の定めた「店童に関する取扱い」に規定する正職員でないとしても、そのことをもつて申請人と被申請人協会との雇用関係が稀薄なものとは認められず、被申請人の前記主張は採用し得ない。よつて申請人と被申請人協会との間の雇用関係は存続しているものと認められる。

四、被申請人協会が昭和四〇年二月二五日以降申請人の労務の提供を受領することを拒否していること、被申請人協会が申請人に対し、同年三月二五日の賃金支払日において金六、六〇〇円の減給をなし、同年四月一日以降の賃金の支払をなさないこと、申請人の賃金が月額金一一、〇〇〇円であることは当事者間に争はない。前記の如く本件就業禁止命令が違法であり、且つ本件解雇が無効であるので、申請人は被申請人協会に対し金六、六〇〇円及び同年四月一日以降毎月二五日限り月額金一一、〇〇〇円の賃金を請求しうる権利を有している。

五、弁論の全趣旨によれば、申請人は他に資産もなく賃金のみにより生活を維持している若年の労働者であり、現在就労を希望しており解雇された地位を継続させることは将来多大の不利益を受けることが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。以上の事実によれば本件解雇の効力を停止し、金六、六〇〇円及び昭和四〇年四月一日以降毎月二五日限り金一一、〇〇〇円の賃金相当額を仮に支払われるべき必要性があるものと認められる。しかし本件就業禁止命令の効力の停止を求める部分についての必要性についてはその主張立証がない。被申請人協会が申請人に対し昭和四〇年四月三〇日申請人居住の名古屋市港区千鳥町三丁目四番地所在の千鳥寮からの退寮を命じ、同日以降の給食を停止したことは当事者間に争はない、しかし右事実をもつて未だ急迫なる強暴が存し又その恐れがあるとは認められず、又申請人が千鳥寮寮生たる地位にあることを仮に定め、申請人の千鳥寮利用を妨害することを差止めなければ著しき損害を蒙るものとは認められず、他に右申請部分についての必要性に関して主張立証がない。

よつて、本件申請の内解雇の効力の停止並びに金六、六〇〇円及び昭和四〇年四月一日以降毎月二五日限り金一一、〇〇〇円の支払を求める部分は理由があるのでこれを認容し、その余の部分は失当であるのでこれを却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 山田正武 浅野達男 寺崎次郎)

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